ブランディングの初心

USAMIブランディング(株)/ CATAPULT(株)
ブランディングディレクター 宇佐美清

最近、ブランディングが世の中に馴染んできたように感じる。
あちらこちらで「ブランディング」という言葉を耳にするようになった。また、普通に経営者諸氏から「うちの会社のブランディングについて・・・」という質問を受ける。

私が初めて「ブランディング」に接したのは1994年。
外資系の広告会社に勤めていて、そこで<BRANDING>という英文マニュアルを見つけた。よくわからないが、なぜか魅力的に感じられて、そのまま翻訳依頼をしたことが記憶に残っている。
私にとっては、この1冊がその後の生き方を決める、すべての始まりだった気がする。

その時から20年を越えた。
最近感じていることは、日本における初期設定期の当時に比べれば、ブランディングはずいぶん成長したな、と思う。いろいろなことが明解になり、わかりやすく解説され、成功例も格段に増えている。
反面、初期の段階で大事だと思っていたことを忘れてしまった気がする。この忘却は進歩課程では当たり前に起きることかもしれない。それでも、このままでいいのか、という気がかりが残った。
そんなこともあり、2004年、5年頃に社内教育に使ったブランディング(当時はまだアカウントプランニングが通称だった)のパワポ教材を見直してみた。

たとえば、こうある。
ブランディングとは「得意先の売上向上であり、その持続的維持に尽きる。同時にそのブランドを世の中に認知させる、それが目的である」
また、実施していくうえで「まちがいや勘違いを恐れない。発想や理論が正しくても、現実に適合してワークしなければ無意味である」とある。

もちろん、わかっていることである。
わかっていると思っているがゆえに、このような強い言葉では、いまは語らなくなった。

この熱い気持ちを忘れたくない、忘れない方が良い。
素直にそう思った。ブランディングの波が来ている、そういう時代だからこそ、もう一度、初心に帰って、ブランディングの入り口を見直したい。

2016年3月11日

世の中なんて、パッと変わる、そういう時代なんだ

「世の中なんて、パッと変わる」昔、こんなキャッチフレーズを見た気がします。今の時代の気分だなあ、と記憶が蘇りました。
今日はコピー談義ではなく、マーケティングセンスの話です。
マーケティングセンスのない奴ってどうしようもない。とか、マーケティングセンスって何だろう、そんな話を時々耳にします。
私には、ズバリではないけど、この「世の中なんて、パッと変わる」という気持ちや意識がそれに近く、重要な要素のひとつという気がします。
生きている限り、次の瞬間に何が起きても不思議ではない、ということですね。いいことも、悪いことも、です。
先日、ラグビーのワールドカップで日本が南アフリカに勝ちました。劇的な勝利でした。以来、日本ではラグビー人気が続いています。高校生の時に、ヘボではありましたが、私はラグビー部に所属していましたので、それ以来、半世紀に及ぶラグビーファンです。まさか、生きているうちにこんな日がやって来るとは、まるで夢を見ているようでした。
これは、パッと変わった、いい例です。もちろん反面、あの3・11に代表される悲惨で忘れられない変転の一瞬もありますが、「パッと変わる」という点では真実です。
世の中は、毎日変わらず、平和で緩慢に動いているように見えていて、時折、情勢が一変する。良くも悪くも、そういう一瞬がある、ということですね。
ここで話を戻すと、変わらないものなんて世の中にはない、という意識。変わるなら、変えられるだろう、という思い。私がマーケティングセンスと言っている根っこはここにあります。
何が起きても不思議ではなく、変わっていくことこそが世の中の真実であるなら、当たり前のことや常識が、あっという間にくつがえされて、新しい当たり前が生まれても、それはごく普通のことである。
この価値観、思い込み、基準が、マーケティングセンスなのです。
こう思っている人には、知らず知らずのうちに、ビジネスの常識を塗り替えよう、世の中にあるマーケティングやブランドのあり方を変えてやろうという潜在意識が働いているのではないか、と思うのです。
こう思っていても、実現できるとは限らない。それも、また世の中ですが、変えてやろう、と思っていない人は、決して、何かを変えることはない、これが世の中の真理だと思います。
「世の中なんて、パッと変わる」このセンスと志を大切にしたいと思います。

ブランディング・ディレクター 宇佐美清

ブランディング・ワークショップと、3つの成功要因

「戦略や戦術をつくる時、どうしてワークショップ形式なのですか?」このような質問を時々されます。そんな時は逆に質問を返します。「そのブランドを一番よく知っている人は誰でしょう?」

正解は、ブランドを所有している人。私たちがブランドオーナーと呼ぶ方々です。ブランドを自分で立ち上げて、世に問うている人たち、企業ならブランドを任されているブランドマネイジャーのみなさんです。 もちろん、私たちもがんばって勉強しますが、ブランドをわが子のように考えて育てている人には、すでに思いの強さでかないません。

このことに気づいて、ワークショップによる合意を大事にしよう、と考えるようになりました。

世間ではブランドを外部からサポートする人がアイデアを考案し、ブランドオーナーに提案して承認を受けると言うやり方が一般的ですね。これは時間も手間もかかるうえに、今さらながら相互の考えの隔たりや、勘違いまで浮き彫りにして、合理的ではありません。私たちのやり方は、オーナーも社員もサポーターも一緒になって、半日、あるいは丸一日かけて、そのブランドのためのワークショップを行うものです。

このブランドのためのワークショップを成功に導く要因は3つあります。

ひとつめは、参加者全員の平等で公平な意識です。その時間はタイトルなし。各々自由に発言して、多様な意見に耳を傾けるブレスト形式で、全てはブランドのためにお互い刺激し合って、一つになる。そういう時間にすること。

二つ目はフレイムワークです。ブランディング7ステップス、略称B7S(ビーセブンエス)と呼ぶブランディング戦略立案のためのメソッドを使って枠組みを組み立てます。B7Sは2006年の拙著「USAMIのブランディング論」で紹介されたもので、いくつかの成功実績をつくってきました。誰でも参加し活用できる、こうしたフレイムワークは、ブランドを世の中で開花させるために、欠かせません。

最後は、ワークショップを仕切るファシリテーターの重要性です。私たちには社員全員がそれぞれの専門性を持って、臨機応変にファシリテーションできるといスキルがあります。アートディレクターもウエッブのデザイナーもこのスキルを持っています。この複数の専門的なファシリテーションの組み合わせが、ブランド理解をより深くし、刺激を多様化して、戦略アイデアへの到達をスピードアップし、確実なものにしています。

戦略立案の後には、そのアイデアに基づく戦術展開案の考案が控えています。それぞれの専門分野を持つディレクターが相互の連携を確認しつつ、全体をファシリテートすることが、効果的な戦術を具体的に生み出すことにつながっていきます。

経営者のための新ブランディング・スタンダード #1

最初にすること、
ブランドに関する共通言語を持とう。

世の中が目まぐるしく変転している。日々、というより時々刻々と言っても過言ではない。私が身を置いているブランド・ビジネスの世界でも同様で、このところ身近なブランドの浮き沈みが目立っている。

ブランドは、人びとの気持ちの中に存在する。世の中が動けば、連動して人の気持ちが揺れ、ブランドに影響することも多々ある。この場合、そのブランドが持つ価値を、世の中の揺れ動きに焦点を合わせて変えていくのか、一考しなくてはならない。

同時に、こういう世の中だからこそ、変わらないことを大切にする、という考え方もある。俳人、松尾芭蕉の「不易流行」(ふえきりゅうこう)という言葉。蕉風俳諧の理念のひとつで、解釈はいろいろあるようだが、簡単に言えば「変化しない本質を忘れず、新しい変化も取り入れる」ということだろう。その意をちゃっかり借り受ければ、この言葉はブランドの本質を、うまく言い当てている。

いまお話しした、ブランドの本質を見据えつつ、変化にどう対応するか、というのは単なる一例に過ぎないが、こうした判断をすることは、ブランディングが担う項目のひとつでもある。今の世の中でブランドを所有すれば、近々あるいは、いつかこうした課題に直面することになる。そのスムーズな解決は、経営者の重要な資質として、ますます求められることになるだろう。

さて、経営者がブランディングを成功させるうえで、まずやるべきことは、何だろうか。

私は、経営者がブランドあるいはブランディングという抽象的な概念を理解した上で、自分の言葉で、つまりわかりやすい言葉で定義づけること、文章にして、話せること、そしてそれを企業内の共通言語にしていくことだと考えている。

これは、経営者にとって、数字を見て先を読むことと両翼をなす、もうひとつの大事な資質である。経営者は、会議などの席上で、往々にして課題や方向性などを、ひと言で言い切らなくてはならない。また、自分の企業のビジョンを文章で明確にし、それを伝えなくてはならないからである。

抽象的な概念を、わかりやすい言葉にするには、まず本質を理解することが大事である。次にそれを簡潔で平易な言葉で表すことが求められる。これには、ある程度、その人なりの解釈が入ってもいい。むしろ「らしさ」が出て、解釈があった方がいいとも言える。経営者にとって、言っている内容は同じだが、言葉の使い方が異なることは珍しいことではない。

さらにもう一つ大事なことは、それを社員に浸透させることである。共通言語がなければ、経営者は自分のブレインとブランドやブランディングの進むべき道を議論することが出来ない。充分な議論をかわした上で、さらに誤解のない言葉になっているかを精査して、社員に伝えていく。いずれは、全社員の共通言語にすることが目標になる。

2015年6月8日

次回予告:「ブランドって何?本質を理解しよう、わかりやすい言葉にしよう」

予告!<経営者のためのブランディング・スタンダード>連載

経営者のためのブランディング・スタンダード>という寄稿連載をブラスタで開始します。この「スタンダード」は基準・規範というよりは、経営者が知っていて当然、やっていて当然の、ブランディングに関する「当たり前のこと」を指しています。

対象は、これから自社にブランディングの導入を考えている経営者、あるいは数年前からブランディングの考え方を取り入れている、という経営者の方々です。ブランディングに限らず、何事においても初心は大切ですが、実務上の現実的な課題に直面した時に忘れるのも、また初心です。経営者にとってのブランディングに関する当たり前のこと、最初の一歩として、前向きな振り返りとして、お役立ていただけたら幸いです。

<ブランディングに関するスタンダードな10の質問>

社員から次の質問をされたとします。
あなたはわかりやすく答えてあげられますか?

①ブランドとは何か?
②製品とブランドとの違いは何か?
③ブランドについての認知、理解、関与とは何か?
④企業ブランドと製品ブランドの違いは何か?
⑤BtoB ブランドとBtoCブランドとBtoBtoCブランドの違いは何か?
⑥ブランディングとは何か?
⑦ブランディングとマーケティングの違いは何か?
⑧ブランディングにおける戦略と戦術とは何か?
⑨ブランディング戦略立案の基本とは何か?
⑩ブランディング戦略立案における重要要素とは何か

 

宇佐美清
CATAPULT(株)
取締役ブランディング・ディレクター